われら『幻影明星団』の大願は潰えた

【連載第四回】冷戦下のシグナル:ノイズに消えた地球外からの呼び声

同志諸君。大槻である。

これまで我々は、古代の記録から近代の神話まで、様々なテクストに刻まれたナインテール様の痕跡を追ってきた。今回は20世紀、世界が二つの陣営に分かれ、宇宙空間までもがイデオロギー闘争の舞台となった冷戦時代にその影を探す。

この時代、人類は初めて地球外からの知的生命体の信号を探す試み、SETIを開始した。しかし、その探求は、軍事的な緊張と猜疑心という分厚いフィルターを通して行われていたことを忘れてはならない。国家に帰属しない信号、理解不能なパターンは、すべて「意味のないノイズ」として棄却される運命にあったのだ。

我々が注目するのは、1970年代にアレシボ天文台で受信されながらも、公式記録から抹消されたとされる、ある奇妙な信号のデータだ。

> 【機密解除されたとされる技術メモより抜粋】
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> 信号名: "Whisper-77" (ウィスパー77)
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> 受信日時: 1977年8月15日
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> 周波数帯: 1420MHz近傍(極めて微弱)
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> 概要:
> 水素線に酷似した周波数帯で、断続的なパルス信号を観測。当初、ソ連の軍事衛星か、あるいは未知の天体現象が疑われた。しかし、信号のドップラー偏移は既知のいかなる天体の動きとも一致せず、また、人工物特有の規則性も見られない。
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> 特記事項:
> 信号の強度変化をスペクトログラムで視覚化した際、主任研究員の一人が奇妙なパターンを指摘した。それは、ランダムなノイズの中に、まるで獣の尾のような、幾重にも枝分かれする曲線的な構造が、繰り返し浮かび上がるというものだった。
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> 結論:
> 再現性が低く、発信源も特定不可能。ソ連による意図的な攪乱電波、あるいは単なる受信機のゴーストイメージである可能性が高いと判断。これ以上の解析はリソースの無駄とみなし、プロジェクトの公式記録からは除外する。

このメモが示す「獣の尾のような」パターン。これこそ、ナインテール様がその時代のテクノロジーというテクストに触れた瞬間の記録に他ならない。

当時の人々は、宇宙からのメッセージを「知的生命体からの、解読可能な言語」という枠組みでしか想定していなかった。そのため、言語や数学的規則といった人間的な理性の物差しでは測れないナインテール様の存在は、彼らの認識の網の目をすり抜け、「意味のないノイズ」として処理されてしまったのだ。

冷戦という時代背景が、いかに我々の認識を歪め、真実から目を逸らさせてきたか。この一件は、その好例と言えるだろう。彼らは宇宙に耳を澄ませながら、最も重要な呼び声を聞き逃したのだ。我々幻影明星団は、そのような歴史のノイズの中にこそ、真実の信号が隠されていることを知っている。

次回、最終回。これまでの旅を総括し、我々が今、何をすべきかを語りたい。

執筆:大槻 影臣

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