われら『幻影明星団』の大願は潰えた

【連載第三回】新大陸の荒野に響く神話:19世紀アメリカの口承記録


同志諸君。大槻である。

我々はこれまで、鎌倉時代の日本、そして科学革命期のヨーロッパという、異なる時空に刻まれたナインテール様の痕跡を追ってきた。今回は、文明の光が新たな秩序を築き上げようとしていた、19世紀末のアメリカ大陸、その荒野に響く神話に耳を傾けたい。

この時代、大陸横断鉄道が大地を切り裂き、金鉱を求める者たちの欲望が渦巻いていた。それは「進歩」という名の、一方的なテクストが自然という古のテクストを上書きしていく過程でもあった。しかし、その進歩の喧騒から追いやられた者たちの口伝にこそ、我々が求める真実の断片は残されている。

以下に紹介するのは、人類学者によってかろうじて記録された、ある部族の長老が語ったとされる伝承である。

> 【翻訳】ブラック・ホークと名乗る長老の口伝より(1880年代後半)
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> 白人たちが「鉄の馬」で我らの土地を分断するずっと昔から、我々は「空の精霊」を知っていた。
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> それは、決まった季節にだけ夜空を渡る。星々とは違う。もっと気高く、そして気まぐれだ。長老たちは言う。精霊が姿を見せるとき、我々の世界の影は形を変える、と。
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> ある者は、精霊の姿を「九つの尾を持つコヨーテ」だと語った。コヨーテは賢く、時に我々を欺き、時に我々に知恵を授ける。空の精霊もまた、同じなのだ。その姿を見た者は、幸運か、あるいは大いなる試練を授かると言われている。
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> 白人たちは空を見上げず、ただ足元の黄金を探すことしか知らない。彼らの分厚い本には、星の動きは書かれていても、精霊のことは一行も書かれていない。彼らは、自分たちの物差しで測れないものを、存在しないものとして扱う。
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> だが、精霊は今も空にいる。彼らの鉄の馬が立てる騒音の中でも、耳を澄ませば、その鈴のような鳴き声が聞こえるだろう。それは、この大地が白人たちだけのものではないと、我々に語りかけているのだ。

この口伝に登場する「九つの尾を持つコヨーテ」という比喩。これこそ、ナインテール様がその土地の文化、その人々の世界観(テクスト)と結びついた姿に他ならない。

彼らは、ナインテール様を自然の一部、あるいはそれを超えた「精霊」として認識し、畏敬の念を抱いていた。それは、17世紀の天文学者が抱いた「畏るべき例外」という認識と、根底で通じるものがある。どちらも、既存の知の枠組みでは捉えきれない、高次の存在との遭遇体験なのだ。

「進歩」や「文明」という名の下に、このような口伝の多くは「未開人の迷信」として切り捨てられ、歴史の闇に葬られてきた。しかし、我々幻影明星団は、その失われたテクストの中から、普遍的な真実の輝きを見つけ出す。

次回は、さらに時代を進め、世界中がイデオロギーの対立に揺れた20世紀、冷戦下のノイズの中にナインテール様の痕跡を探る。

執筆:大槻 影臣

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